●『更新カルテから見るスキル標準活用企業の進化(その2)』
特定非営利活動法人 スキル標準ユーザー協会 理事
スキル標準キャリア開発コンサルタント 松本 道典
5.2025年の審査から見えた新たな傾向
本コラムは、前回のコラムに続き、スキル標準活用企業認証に関する最新の動向をお伝えします。
2025年2月20日に実施した審査を通じて、企業の取り組みに新たな変化が見えてきました。
今年の更新カルテを分析すると、特に以下の3つの特徴が際立っています。
① デジタル人材育成の進化
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が企業経営の重要課題となる中、多くの企業がスキル標準を活用したデジタル人材育成に力を入れていることが明らかになりました。
例えば、「Silver Plus」以上のランクを持つ企業の多くが、スキル標準を基盤にした独自の研修プログラムを開発・実施しています。これらの研修は、座学だけでなく、実践的なプロジェクトやOJT(On-the-Job Training)を組み合わせるケースが増えています。また、一部の企業では、生成AIやデータ分析など、最新技術に特化したスキルセットを組み込む動きも見られました。
② 組織的な運用の成熟
これまでの審査では、スキル標準の活用が特定の部門にとどまるケースもありました。しかし、今年の審査では、企業全体での取り組みへと進化している事例が増加しています。
例えば、社内でのスキル標準に関する認知度向上を目的とした「スキル標準説明会」の開催や、部門横断的なスキルマップの作成など、組織全体での統合的な運用が進んでいます。また、経営層の関与が増え、スキル標準を戦略的な人材育成ツールとして活用する動きが強まっていることも印象的でした。
③ 定量的な評価指標の導入
従来、スキル標準の活用状況の評価は主観的な判断に頼る企業が多く見られました。しかし、今年の審査では、より定量的な評価指標を導入し、スキル標準の効果を可視化する企業が増えています。
例えば、スキル標準を活用した研修後のスキルアセスメントの実施や、従業員のスキル習得度をデータとして管理し、KPI(重要業績評価指標)と連携させるケースが見受けられました。こうした取り組みは、スキル標準を企業の成長戦略と結びつける上で非常に有効です。
6.今後の課題と展望
今回の審査を通じて、多くの企業がスキル標準を効果的に活用し、組織の成長へと結びつけていることが確認できました。しかし、一方でいくつかの課題も浮かび上がりました。
① スキル標準の定着と実効性の向上
スキル標準を導入した企業の中には、初期段階で熱心に取り組んでいても、時間が経つにつれて活用が形骸化してしまうケースがあります。そのため、長期的な視点でスキル標準を企業文化の一部としての定着、仕事の仕組みとして年間PDCAに組み込むことが、今後の重要な課題となるでしょう。
② 経営戦略との連携強化
今年の審査では、スキル標準を経営戦略の一環として位置づける企業が増えていますが、依然として「人事施策の一部」として捉えられるケースもあります。今後は、スキル標準を経営戦略とより密接に結びつけ、企業の競争力強化につなげる取り組みが求められます。
③ 産業横断的な情報共有の促進
各企業が独自にスキル標準を活用し成果を上げている一方で、他社の成功事例を学ぶ機会がまだ限定的であることも課題の一つです。今後は、スキル標準の活用事例を、業界を超えて共有し、ベストプラクティスを学び合う環境を整備することが重要になります。その一環として、2カ月に1回開催される「情報交流委員会」があり、企業間での情報交換や議論を行う場として活用されています。(詳細ページはこちらより)
スキル標準というディクショナリーを利用しない手はないというのと同様に、先行している企業事例を取り込まない手はないと考えます。
④ ランクアップする企業の少なさ
今年の審査では、ランクアップした企業がゼロではないものの、その数は多くありませんでした。多くの企業がスキル標準の導入・運用には取り組んでいるものの、次のステージへ進むための継続的な改善や革新が求められています。企業がランクアップを目指すには、単なる運用の維持ではなく、さらなる発展に向けた継続的な挑戦が必要です。
7.おわりに
今年の審査を通じて、スキル標準活用企業の進化を目の当たりにし、改めてこの認証制度の意義を実感しました。
企業がスキル標準を活用することで、個々の従業員の成長だけでなく、組織全体の競争力強化にもつながることが明らかになっています。
スキル標準の活用とランクアップを目標とすることで、経営ミッションの実現、現場の生産性向上、個人の成長に効果を出すことが期待されます。
これからも、審査員として企業の取り組みを支援しながら、スキル標準のさらなる発展に貢献していきたいと思います。そして、本コラムを読んでくださった方々が、自社でのスキル標準活用を検討する際のヒントを得られれば幸いです。