●『二拠点居住のススメ』
        
        信州大学 SPARC推進本部 副本部長/
        株式会社三菱総合研究所 人材・キャリア事業本部 佐々木 康浩

自己紹介代わりに二拠点居住の話を書きたいと思います。
私は2023年春から、信州大学で働いています。三菱総研にも籍があるので複業ということになります。
正確に言えば、信州大学のほうが本務ですが、それはこの際あまり関係ないので、
どちらでも構いません。松本にキャンパスがあるため、1年ほど松本市内に単身でアパートを借りていました。
職住近接で、一人で飲みに出かけるなど、それなりに快適でありましたが、それほど多くの知人が出来た訳ではありません。
ある日、東京の夏が暑過ぎるので、妻が犬の散歩は負担だと言い始めました。
ところが、松本にはペット可の賃貸物件がありません。
では住宅を買おうと思っても広めの高額な物件しか売られていません。

たまたま八ヶ岳山麓の別荘に住んでいる会社の大先輩がいることを思い出し、話を聞いてみることにしました。
すると、周辺には割安の物件が多いだけでなく、コロナ禍を境に移住者も増えたことを知りました。
かく言う先輩も夏は小淵沢、冬は都内という二拠点居住です。
数ヶ月の探索の後、蓼科にある東急リゾートの別荘を買うことになりました。
当初想定したものよりも予算オーバーではありますが、管理のしっかりしている物件は売却時に有利であると思い、決断しました。
別荘というものは金持ちが保有すると思っていただけに、自分が別荘オーナーになるとは。
人生はわからないものです。

蓼科に住むようになって、地方というものが少し見えるようになってきました。
まず、東急リゾートの中で様々な活動があります。例えば、別荘地を大切に思ってきた人が、
お互いに知り合う機会をサロンという形で作っています。
別荘オーナーが主な参加者のためか、登壇者も各界で活躍してきた人たちが多いようです。
宇宙開発の話や経済学の話、出版の立場から本作りの話などなど。
私は林業専門の経営コンサルタントの方の話が興味深かったです。
定期的に開催される「サロン」は、講師や参加者と知り合いになる絶好の機会となりました。
別荘地では、都心のマンション以上に接点が薄いのが一般的ですが、サロンを通じて、
近隣住民にどんな人がいて、何に興味関心を持っているのか知ることが出来るようになりました。

蓼科東急リゾートの最寄り駅は、中央本線の茅野駅です。
茅野駅自体は改札が一つきりの寂しい駅であり、正直言ってパッとしません。
スタバはありませんし、ファーストフード店もありません。
あるとき、必要に迫られてオンライン会議の出来る場所を探したら、
パッとしない駅前ビルの2階に「ワークラボ八ヶ岳」というコワーキングスペースを発見しました。
3時間利用で500円という格安です。利用に当たってメールアドレスの登録が必要でした。
後日、そのメールアドレスに定期的に開催されるイベントや講習の案内が届くので、
Instagramのリール動画の作り方教室に顔を出してみました。
行ってみて、びっくりしました。20名ほどの参加者がいるのです。どこから湧いて出てきたのでしょう。
同じテーブルになった方々と話をしたところ、革細工の店を始めた人や古民家に移り住んで苔リウム
の制作・販売をしている人など、移住者が多いことに驚かされました。
なにか寂れた駅だなと思っていたところに、そこだけに陽光が当たっている気がしたものです。

東急リゾート内にはホテルがあります。
ある日、そのホテルのソムリエが開催したイベントに参加しました。葡萄摘み体験です。
約3年前に茅野市内で初めてワイナリーができ、その葡萄畑に出向いてワイン用の葡萄を収穫するものです。
葡萄の生育度合いにより、その日の畑が異なるのですが、私はピノノワールという品種の葡萄を約半日、
収穫しました。1年後にはワインとして手元に届くことになっています。
実は、このワイナリーのオーナーは元IT技術者ということです。
ご夫婦で葡萄の栽培からワイン造りまで一貫して、茅野市内で行っておられます。
詳しくお話を伺ったわけではありませんが、データ分析などIT技術者ならではの経験が活かされているのではないかと思います。

長々と個人的な経験を書いてきたのは、物事の捉え方について皆さんと分かち合いたかったためです。
IT業界の皆さんの業務においても、発注者の意図が仕様書に100%落とし込まれているとは限らないと思います。
情報システムが出来上がってから、こうして欲しかったとか、こう変えられないかと言われたご経験は多いのではないかと思います。
それと似たような話で、東京など都会に居ると、生活者の目線とか働いている人の思いなど、
なかなか直に感じ取ることは難しいものです。
今回、地方で暮らしてみて、一人ひとりの暮らし方が見えるようになり「解像度」が上がったと感じています。
IT業界は、比較的テレワークが馴染む職場ではないかと思います。
一気に移住というとハードルは高いですが、まずは二拠点居住というあたり、
真剣に考えてみてはいかがでしょうか。

(参考)
・ワークラボ八ヶ岳 https://wly.jp/
・オレイユ・ド・シャ(ワイナリー)https://www.odcwine.com/