●『間違いだらけの人事制度(1)』
副業 個人ワーカー(事業人事戦略デザイン)但吉 英山
特定非営利活動法人スキル標準ユーザー協会(以下、SSUG)のスキル標準ユーザー協会認定のキャリア開発コンサルタントの但吉(たじよし)です。初めましての方も、そうでない方もよろしくお願いいたします。
日頃はとあるSI企業にて事業推進・企画の仕事に携わっておりますが、個人でもスキル標準活用認定コンサルタントとして、キャリア開発に関わるコンサルティング、企業の事業戦略に関わるコンサルタントを実施しています。
社会人大学院で学び直しを経験しており、ITサービスのデザイン、ビジネスデザインのワークショップ企画実施の経験もありますので、何かお困りごとがある方はお気軽にメールでご相談ください。
今年の4月からはSSUGの情報交流委員会で委員長として活動しています。2ヶ月に1度、リアルで集まり、テーマに則った情報共有を行なっています。今年はDX人材のキャリアパスというテーマで活動しています。
同業他社の情報のリアルな情報が共有できる良い機会であり、委員会活動をきっかけにより個別に情報交換をおこなっている参加企業様もあります。交流委員会に興味がある方はSSUG事務局にお問い合わせください。
と、私事はこれくらいにして、本コラムではこれから「間違いだらけの人事制度」と称して、様々な人事制度やビジネスデザインに関わる話をしようと思っています。
今回は、タイトルの「間違いだらけの人事制度」とはどういうもので、どうして生まれるのかについて語って行きたいと思っています。
人事施策や人事制度でいつの間にか目的を見失ってしまう。そのため、設計面では問題はないが、作った目的が達成できない状態になる。例えば、事業達成に必要な人材の調達計画を立てるために、評価制度でITSSを導入したはずなのに、ITSSを活用して作った評価制度のアウトプットで、各事業組織で必要な人材のポートフォリオが語れないなんて覚えはないですか?
私はこうした「設計上は問題ないのに、本来の目的から外れた運用を行っている人事制度」を私は「間違いだらけの人事制度」と呼んでいます。みなさんは、こうした「間違いだらけの人事制度」に悩まされていませんか?
では、どうしてこのようなことが起きてしまうのでしょうか?
私は本来の目的の変質、遺失が一番の原因だと考えています。変質、遺失が起きる要因は、制度を運用することで関係者が増えていくことにあります。関係者、特にその組織での新規関係者が増えるほど目的が共有できず、曲解されて変質・遺失するのです。そして、変質・遺失した本来の目的が原因で運用がおかしくなるのです。
効果的な対象方法は、当たり前ですが一貫した正しい説明と相互理解にあります。
この正しい説明というのは、1回の研修や説明会で伝わるものではありません。本来の目的と中身の理解に至るまで繰り返し粘り強く行うことが重要です。例えば、マネジメント層に本来の目的はそもそも何だったのか、何がやりたかったのかをディスカッションして、再発見させるというメソッドも効果的です。
また、最初の関係者で設定した本来の目的が間違っていて、運用対象を拡大していく際に関係者からまったく共感してもらえず、変質・遺失するケースもあります。これは「本来の目的」を組み立てるメンバーと方法に問題があり、最初からの「間違いだらけの人事制度」といえます。
「間違いだらけの人事制度」といってはいますが、個々の人事制度は「正しい実装がされた正しい人事制度」だと私は思っています。運用で問題が発生したため「間違いだらけの人事制度」になる。
そのため、制度を変えるよりは本来の目的にあった形で運用できるようになるのであれば、それが一番良いというのが私の意見です。自社の役員にもそのように話したことがあったのですが、彼は制度を変えたかったようで、理解してもらえなかったのは苦い思い出でした。
さて、最後に少しだけ「本来の目的」について補足をして、今回は終わりにします。
最初の定義で「設計上は問題ないのに、本来の目的から外れた運用を行っている人事制度」と述べましたが、人事制度の「本来の目的」とは何でしょうか?
この問題について、「社員がモチベーションを高めるためにインセンティブ制度を設計する」というケースで説明します。この場合、「社員のモチベーションを高める」が目的なので、制度の達成度を評価するKPIはモチベーションサーベイの結果でしょうか?本当にそうでしょうか?
何か、違う気がしますよね? そもそも社員のモチベーションを高めるのは何故ですか?
「社員のモチベーションを高める」ことで、(例えば)「売上目標を達成」or「売上10%増加」させるなどの「本来の目的」があるのではないでしょうか?とすれば、KPIは分解することが難しいですが、「売上額」ですね?
企業における人事制度の「本来の目的」とは、事業計画・戦略を実現することにつながるべきです。
ですが意外にこの基本が抜けて、そもそも「問題だらけの人事制度」になることも多いと思っています。
先にあげたITSSの例も、ITSSのアウトプットが人材のリソースを示す係数となり事業計画や要員計画で活用できることが目的でわけです。ですが、レベル評価に社員が満足、PM Lv4 10人達成という手段が目的となって、気がつくと事業計画で使える制度で無くなってしまっていたわけですね。これはなかなか対応が難しい問題です。
今後、本コラムを通して「本来の目的」に則った「間違いだらけじゃない人事制度」はどうやって構築すればいいか、いろいろなケースでお話していこうと思います。これからよろしくお願いします。
(初回は、ここまで)