●『企業戦略に合致した人材開発のための"人材体系構築法" ~その2』

        (株)スキルスタンダード研究所 代表取締役社長 高橋 秀典

先回は、企業における人材体系構築の第一歩として、どうありたいか、どうなるのが目的か、というところを明らかにする「要求モデル」について説明しました。
今回は、少し先を見てみましょう。体系を構築してどのように活用するのかをイメージとして持っておくことが大事です。
これに限らず何でもそうですが、やみくもに積み上げていっても拡散するばかりなので、ある程度具体的なゴールを設定してそれを目指す、という考え方です。

【組織視点と個人視点】

先回の「要求モデル」は、組織として、もしくは企業として何を目指すかをロジックツリーで表したものです。
これは、個人がどうなりたいかではなくて、組織として何を目指すかという視点です。
企業に人材体系や育成の仕組みを構築して活用するわけですから、個人の視点だけでは、話が成り立ちません。

スキル標準活用や人材育成の推進担当、責任者の方が、「うちは社員のスキルアップのためにやっているんだ」と言われることがあります。
これは手段であって、本来の目的は企業の「ビジネス目標達成」と、そのための「組織力向上」のはずです。

それを理解していない方はいないはずですが、ではしっかりと説明できるかというと、必ずしもそうで無い場合が多いと言えるでしょう。

企業戦略や事業計画を基にした人材体系、また人材モデル、そして育成のための仕組みとして成り立っていないと、他者にうまく説明できないのです。
それでは機能するはずもなく、考えや仕組みを浸透させるには、説明できるものを用意して社員にしっかりと理解させることが必要です。

重要なポイントとして、要求モデルを策定するということは、仕組みの浸透・継続には欠かせないものであり、唯一無二の方法であって避けては通れないということです。

【組織力と人材能力】

人材は企業の資産です。その人材が持つ能力をどのように見ればいいのでしょうか。

ITスキル標準がもたらしたインパクトはかなりのものでした。
特にキャリアフレームワークの職種とレベルでの表現が、我々の予想の範囲を越えた浸透の仕方を見せました。

人材を専門職種に分類し、能力や実績でレベルを決めるというものです。
日本は、資格で評価する傾向が強いと考えられますが、まさにITスキル標準を使った職種・レベルでの評価がピッタリときた、という感覚でしょう。

来年度にスタートするプロジェクトはこのくらいのものがいくつある、したがってこの職種のこのレベルの人材が何名くらい必要。
それを事業でまとめると、職種・レベルごとの必要人数が出てくる。これを元にリソース計画、育成計画を立て・・・。

確かに目標値が明らかになり、一見良さそうに見えます。
しかし、これでPDCAを廻し実践していけるか、ということです。

ここには課題が2つ存在します。

1つは、この目標人数の信憑性で、どう考えて数値にしたかということです。
なぜその人数かを他者に説明できるか出来ないかが分かれ目になります。

もう1つは、育成計画の実施についてです。
どの企業も、人材育成は部署などの管理責任者に大きく委ねられています。
その責任者が理解して育成のための指導が出来るようになっているか、そのために有効な武器を用意できているかということです。

【組織視点で必要なファンクションモデル】

先の2つの課題を同時に解決できる方法があります。
それが、組織力を機能で捉え、To Beファンクションモデルを作り上げるという方法です。

組織視点で捉えていかないと、企業戦略や事業計画を基にした人材体系、そして育成の仕組みとは言えません。
別の言い方をすると、人材個々の視点では企業や組織の考えと合っているものになりにくいということなのです。

つまり、この業務アプリデザイナーという人材像のレベル3の人をレベル4に上げるということでは、企業戦略とうまくつながらないということです。
また上司が同じ言い方で、部下を育成するために指導したとしてもピンと来ません。

例えば事業責任者の場合、自分の責任範囲でメンバがどのくらい仕事をする能力を持っているかを知りたいところです。
レベル2の人が何名いる、これで果たして分かるでしょうか?

その考えの基本になるのは、責任範囲のタスクを明らかにし、その中での能力分布を示すことです。
そのためには、必要なタスクをファンクションモデルとして表す必要があります。

【タスクフレームワーク上での能力分布】

企業の人材体系の重要な要素であるスキルについては次回以降説明するとして、ここでは先ほどの組織で実行していくべきタスクをファンクションで表すという考え方を示しました。
そのタスクを実行する能力の分布を見ることが、一番有効な現状把握だといことをお分かりいただけるでしょう。

管理下のメンバの能力を人材像ではなく、タスク上に分布させて見るのです。
そうするとプロジェクト管理タスクの中でも、契約管理が能力不足だとか、このタスクはバランスよく分布しているなど、組織の実力として見えることになります。

これを人材像・プロジェクトマネージャのレベル4だと言っても何も見えてきません。
個人の視点では人材像のレベルが分かりやすいのですが、企業力・組織力の向上という命題の上では、余り意味をなしません。

あくまで企業視点から考える。企業で活用するというのは、そういうことなのです。

 ~その3に続く