●『企業戦略に合致した人材開発のための"人材体系構築法" ~その1』

        (株)スキルスタンダード研究所 代表取締役社長 高橋 秀典

一口に「人材育成」と言っても、過去に繰り返してきた研修プログラムを作成することが主体では、厳しいビジネス環境を生き抜くためには、到底物足りないと言わざるをえません。
今回から数回に分けて、企業戦略に合った人材開発を進めるための「人材体系構築法」を解説していきます。

【思わぬ落とし穴「人材体系構築」自体の目的化】

システム構築の場合は、システムが出来上がったときが、「本来のスタート」であり、実際に顧客が使い始めてどのくらい効果があるかを評価されます。
運用計画や信頼性が非常に大切なわけです。
それと同様で、人材体系構築を終えて使い始めるタイミングが、企業にとってのスタートになります。
様々な層からの抵抗が必至ですし、うまく浸透させるためには、その前提での周到な準備が必要です。

また、逆にシステム構築と異なるのは、導入後の仕組みの完成度はあまり高くない点で、良くても70%程度だということを認識しておく必要があります。
つまり、運用しながら改善する仕組みも、同時に考えておくことが必須となるわけです。

【スキル標準を使うという認識は当初のみ】

「ビジネス目標達成に貢献する人材」を育成するために、企業は投資するのです。
このことに異論は無いはずですが、そうすると「iCDを導入している」、もしくは「DXスキル標準を使っている」ということは、さして重要ではなくなります。

IPAの調査などでは企業の何%がスキル標準を使っているか、ということがよく取りざたされますが、これは提供側の視点に立った話しであって、活用側からすると使っているからといって、うまく人材育成のPDCAを廻しているということには、必ずしもつながりません。

運用がうまく行っている企業では、スキル標準を参照したという程度の認識で、使っていると発言される方は少ないのです。
もちろん、一から作るのは大変であって、スキル標準として提供されているコンテンツを最大限活用していることは、言うまでもありません。

そればかりか、導入作業の途中でスキル標準という言葉自体が登場しなくなるのが、普通のパターンです。
スキル標準を有効利用すればするほど、自社の独自性や特徴、また弱点などが顕在化し、過不足が明確になります。
ということは、原型から大きく変わっていくことになり、「スキル標準を使っている」という認識は薄れることになるのです

【自社に合った「人材体系」構築、その第一歩は、あるべき姿の検討】

それぞれ企業では、企業戦略に合った人材体系を構築し、それを使ったTo Beを明らかにして、現状(As Is)を把握してギャップを明らかにする、そしてそのギャップを埋めるための人材投資計画、育成計画を立案するという流れになります。
 DX推進においても基本的な考えは同様ですが、短期の目標しか見えない上において、試行錯誤を繰り返す前提での体制づくりや運用が必要であるという点が、今までとは異なることになります。

では、企業戦略から自らがどうなりたいかということを明らかにするために、何をどうすれば、
また何からとりかかればいいのでしょうか。

 まずは、自社の戦略をロジックツリーとして表現した「要求モデル」の作成が重要です。

ユーザー企業を例にとると、このモデルを策定するために読み解く必要があるのは、ビジネス部門のIT戦略・事業計画、人事部門の人材戦略など、それらをもとにして立案された情報システムの事業計画、さらにCIOや事業責任者にインタビューも重要です。

一般的に、企業戦略や事業計画には人材育成の重要性には触れられています。
しかし、それを読んでもメンバには自分が何をすればいいかが、今一歩ピンと来ない場合が多いと言えます。

このモデルは、企業戦略や事業計画から組織力や人材に関して、どうあるべきかを導き出していくと、CIOや責任者、また一般メンバにも理解できるものにする必要があります。

あるべき組織、あるべき人材について説明できるものを用意し、関係者全員に共通認識を持たせる。
これが、自社に合った人材体系構築の第一歩となります。

~その2に続く