●『スキル標準の歴史とiCD & ITSS+ ~その6』

        (株)スキルスタンダード研究所 代表取締役社長 高橋 秀典

前回、iCDは「Task Oriented Approach」主体の活用法であり、全体のタスク構造を求めた後で担当タスクの範囲を役割分担していくという流れであることを説明しました。
一方、ITSS+は 「Roll Oriented Approach」であり、あらかじめDX推進専用の役割を設定するところからスタートします。
アジャイルの原則とアプローチが効果的で、Goalが見えにくいDX推進への対応がまずは可能となり、次の利点があります。

・データサイエンス領域などDX推進用の各領域の定義体を使用した新たな適用分野への役割設定
・目的に応じた新たなDX技術取り込みと適用のための検証

DX推進に向けてのiCD & ITSS+利活用のポイントをまとめると次のようになります。

・iCDは現行業務、及びその延長線上にある将来の業務を見える化することに適している
・反面、iCDだけではDX技術への対応が難しい
・DX推進専用の役割を設定し、技術スキルなどはITSS+を参照し補完する必要がある

スキル標準の活用においては、「役割」の考えを十分に理解しておく必要があります。
役割はタスクの集合体であり、iCDのみを使った場合の策定の仕方は、企業や組織全体のタスク構造(To Be)を構築してから、役割として分担していくという手順となります。
この全体のタスク構造構築時にDX技術のタスクが入り込んでしまうとミスリードとなってしまい、うまく構造化できないということは先のコラムでも述べました。
一方、ITSS+を使用してDX推進専用の役割を設定する場合は、全体構造ではなく必要だと考える役割から先に設定していくことになります。
設定した役割に対してITSS+の定義体などを使ってDX技術を補完していくことは、それほど難しくなくミスリードを防ぐことができます。
試行錯誤しながら、役割のタスク構造、場合によっては役割自体も見直すことになり、ここでも、アジャイル的な考え方で進めていく必要があるということです。

【2025年の崖】

 企業にとってDXの重要性が認識されている現在、2025年頃に明らかになる課題について触れておきます。
「2025年の崖」は経産省のDXレポート最新版に記載されています。その内容とは、既存システムが事業部門ごとに構築され、全社横断的なデータ活用ができないことや、過剰なカスタマイズがなされているなどにより、複雑化・ブラックボックス化していることによって引き起こされるとしています。
また、2025年には基幹系システム運用歴 21年以上が6割を占めるとの予測もされています。
既存システムのブラックボックス状態を解消しつつ、データ活用ができない場合、結果として次の問題が発生する懸念があります。

・データを活用しきれず、市場の変化に対応してビジネス・モデルを柔軟・迅速に変更することができない
・短期的な観点でシステムを開発することで、結果として、長期的に保守費や運用費が高額化し負担が増大
・保守運用の担い手不在で、サイバーセキュリティや事故・災害によるシステムトラブル、データ滅失等のリスクが増大

 これらの対策については、複雑化・ブラックボックス化した既存システムについて、廃棄や塩漬けにするもの等を仕分けしながら、必要なものについて刷新しつつ、DXを実現することが重要です。具体的には次の通りです。

・システム刷新計画・教育計画策定、体制構築、共通プラットフォームの検討
・顧客、市場の変化に迅速・柔軟に対応しつつ、経営戦略を踏まえた計画的なシステム刷新、不要なシステムの廃棄を断行
(業種・企業ごとの特性に応じた形で実施)
・マイクロサービス、アジャイル等の手法で、DX技術を迅速に取り入れ、リスクを低減
・段階的な刷新、共通プラットフォーム活用等により、新たな製品、サービス、ビジネス・モデルを素早く市場に展開

【スキル標準活用のポイント】

 スキル標準の企業活用においては、経営視点、組織タスク視点、およびDX推進の視点が重要です。
何が目的か、実施内容は目的に沿っているか、自社のモデルとして適正かなど、十分に考えてから取り掛かることが必要でり、後戻りはできないことを十分認識する必要があります。

取り組みにおけるポイントは次の通りです。

(1)企業活用時に必ずしなければならないこと

 ・経営者自らが内容を理解してリーダシップをとり、推進者が動きやすい環境を作ること
 ・推進者に優秀な人材をアサインすること
 ・ビジネス目標、経営戦略、IT戦略から自社の魂を入れた「タスク構成」、「役割定義」、「スキル定義」を策定すること
 ・DX推進に関しては、早期に専用の役割設定をして見直しながら進めること
 ・本番開始後の継続運用についても十分に検討すること

(2)企業活用時に絶対にしてはいけないこと

 ・議論せずにそのままの形で取り込むこと
 ・理解度の低い担当者に丸投げする(責任を押し付ける)こと
 ・目標や各定義体を検討・設定せずに、スキル診断などを行うことや、人事に取り入れること
 ・今まで使ってきたITSSの職種や役割とDX専用の役割を横に並べないこと

スキル標準やその活用の推移を理解しておくことは、企業の今後にとって必ずプラスになります。
また、企業の目的や方針に沿って頭を使い魂の入った人材育成計画を立てることが、ますます重要になってきます。
そのためには、今まで何度も苦い思いをしてきた「与えられるものをそのまま使う」というアプローチに決別することが必要です。