●『スキル標準の歴史とiCD & ITSS+ ~その2』
(株)スキルスタンダード研究所 代表取締役社長 高橋 秀典
最新のスキル標準であるiCDやITSS+は、「企業」での活用が基本です。
これまでもITSS、UISS、ETSSなど旧スキル標準についても、多くの企業が活用してきました。
これらスキル標準の策定経緯や活用について、振り返ってみたいと思います。
また、DX推進を見据えた活用方法についても深堀していきます。
【UISS、ETSSの公表】
ITSSの理解をめぐり様々な意見が出ている状況の中、2005年にETSS、2006年にUISSが立て続けに公表されました。
ETSSは当初の基本的な考え方をまとめるときにアドバイスさせていただきました。
また、UISSは経済産業省からJUASに委託された中に参画することになりましたが、
先述のファイザー社で実証した企業への活用法やコンテンツの構造など多くを提供しました。
それぞれの公表時にITSSとは状況が異なっていましたが、当時の共通見解をまとめると次の通りです。
・エンタープライズ系のIT技術が対象のITSSは技術者そのものが成熟しており、企業の中でどのように活動していくかなど、
またキャリア生成などが課題となっていた
・組み込みの世界は、まだまだ技術者が不足しており、いかに育成して技術者の人数を増やしていくかが課題だった
・ユーザー系のIT部門、情報システム子会社については、自らの仕事の範囲や内部の役割分担、
パートナー企業との役割分担が問題となっていたが、ITSSはそれらの問題解決に適していなかった
これらITSS、UISS、ETSSの3つのスキル標準は、構造も考え方も異なり、
複数のスキル標準を使う場合などどうしていいかわからず勉強ばかり繰り返している、
そのうちそのサイクルも長くなり、担当者も異動で新たな担当になるか、棚上げになってしまうといった状況が続いてきました。
また、別の見方をすれば、IT業界ほど人材育成について必要性が高いにも関わらず、
真剣に取り組んでこなかった業界はないと言われてきました。
長い期間、人を集めれば仕事になった状態が続いてきました。
まるで派遣業を生業とするような小さなIT企業が乱立してしまったとも言えます。
また、振り返るとこの時代は、IT化することがイノベーションだったと言え、誤解を恐れずに言えば、
その間企業は本人任せで人を育成することを放棄してきたと考えるのは私だけではないはずです。
しかし、現在はIT化することは当たり前であり、イノベーションでも何でもありません。
こうなれば人材を育成する経験不足から、技術やノウハウがあまりにも貧弱だというのは言いすぎでしょうか。
そのような状況の中、民主党政権がスタートしたときの仕分けで、スキル標準は民間に移管するということが一度は決まりました。
今後方針変更になるかどうかは定かではありませんが、国側とすればスキル標準を導入した経験のある人が内部にいない中で、
改善することや維持管理は難しいということも重要な問題です。
一方で、大手ベンダなどについては人も組織もコストもかけることができ、独自で進めています。
しかしながら地域などの中小は先ほどの内容の通りだという認識です。
IPAの人材白書でも、スキル標準に普及率は大手ではかなりのものですが、中小では全くと言っていいほど普及が進んでいません。
放っておいてもできる大手企業だけ進んでいて、手厚いサポートが必要な中小企業にはほとんど普及していないということです。
国側も地域や中小に対してはあまり手を打てておらず、年に1度か2度地方でセミナーを開催する程度では、
焼け石に水だったのは否めません。
【CCSF、iCDの公表】
2014年7月に、IPAからスキル標準の最新版であるiCD (iコンピテンシ・ディクショナリ)が公表されました。
この間にCCSFが公表されていますが、これはiCDの初期バージョンと位置づけられます。
CCSFは、旧来の3つのスキル標準をUISSベースに統合したものですが、タスク中心の考え方がより明確になりました。
これは企業活用する場合は必須の考え方です。
iCDもこの考え方を継承しており、自社の戦略に合わせて組み立てるという考え方を基にデザインされています。
また、iCDになってCCSFの構成要素であるタスクモデル・スキルモデル・人材モデルから、
「タスクディクショナリ」と「スキルディクショナリ」の2つの構成に変更され、よりシンプルになっています。
さらに、教育プログラムや資格とも紐付が可能で、より現実的・効果的な仕組みとなっています。
各ディクショナリを整理・編集するに当たり、IT関係の主要なプロセスやBOK(Body Of Knowledge)を取り込んでおり、
取り込んだBOKのバージョンアップなど必要に応じてメンテナンスされていくことになっています。
~その3へつづく 次はiCDの構造、活用に入っていきます。