●『スキル標準の歴史とiCD & ITSS+ ~その1』
(株)スキルスタンダード研究所 代表取締役社長 高橋 秀典
最新のスキル標準であるiCDやITSS+は、「企業」での活用が基本です。
これまでもITSS、UISS、ETSSなど旧スキル標準についても、多くの企業が活用してきました。
これらスキル標準の策定経緯や活用について、振り返ってみたいと思います。
また、DX推進を見据えた活用方法についても深堀していきます。
【ITSSの公表と活用状況】
2012年12月にITSSが登場した時に、注目したのは企業の経営者、人事担当、および人材開発担当でした。
当初、提供側のIPAからは技術者個人視点の話と企業の組織視点の話が混在したメッセージや、企業活用の場合、中身の変更はするべき、してはならないなど人によって話す内容が異なり統一されていませんでした。
それが混乱や誤解を招く原因の一つであったと思われます。
筆者は、当初より各スキル標準の改訂委員・策定委員を歴任していますが、この矛盾について追及・検討し、企業で活用するには次のことを守る必要があるという結論に達しました。
・ITSSのキャリアフレームワークや定義体は企業のモデルに合わせて再構築する
ITSSは、キャリアフレームワークをはじめ、職種やスキル熟達度定義、達成度指標定義が細かく設定されているため、そのまま変えずに使うことが当初のイメージとして定着してしまいました。
しかし、それでは企業の意志やビジネスモデルが反映されず、企業自身の考え方や事業計画とは全く乖離し、社内向けにも説明しにくい人材育成の仕組みを持ち込むことになってしまいます。
・人材像やスキルから定義するべきではない
上記の理由からITSSキャリアフレームワークをそのまま使うことに違和感を持った企業が取り組んだのは、ITSSを参照モデルとして自社向けのものを作り上げるという試みでした。
最も簡単な進め方として、必要な人材像を設定してそのスキルを定義していくという方法があります。
これは人事系のコンサルなどが多用してきた方法でもあります。
この場合、担当の方が頑張って定義しますが、その思いや使命感が次の担当者に引き継げず、フェードアウトする危険性が大きいのです。
担当が替わった上にビジネス環境も変化し、構築した仕組みを見直すことになるケースが多く、引き継いだ担当者はどのように対応していいかわからないという状況に陥ります。
また、策定したものに担当者個人の意思が反映されていて、他者に説明できる明確な根拠がないことも多いと言えます。
人材育成の仕組みづくりは理論的な考えで進める必要があり、説明できないものは継続することも難しいのです。
・企業力や組織力を向上させることが目的であり、そのために必要な「タスク」を明らかにする
スキル標準の企業導入の目的は、企業力、組織力を向上させ、目標達成に貢献できる人材を維持・確保・育成することです。
そこに直結する考え方を形にするには、技術者個人の能力向上を目的にするのではなく、企業や組織自体を対象とした取り組みにする必要があり、それが将来を見据えたあるべきタスク構造の構築ということになります。
以上の考え方を実証したのが、2003年のファイザー社へのITSS導入です。
当時定説となっていた「どの職種・レベルに何人いるかというところからスタートする」ことに疑問があり、企業導入の方法論を検討し仮説を立て、ファイザー社で実証させていただきました。
考え方は「ファンクションから入る」というもので、iCDのタスクと同様の考え方です。
ITSSの達成度指標、スキル熟達度を分解し、SLCPに沿って再構成するという方法をとりました。
iCDをご存知の方はお気づきのように、私が15年以上前に作り上げたこのコンセプトが、iCDの基本思想になっています。
また、達成度指標でレベルが決まる、という局所的な話ばかりが先行していました。
さらにスキル熟達度と達成度指標が文章上で同じ表現をされていることや、中身として未成熟だったこともあり、当初は多くの人が両方ともスキル定義だと誤解しているような状況も散見されました。
達成度指標は成果を評価する指標であり、企業の人事制度に抵触する場合が多いという話など、大局的、現実的に語れる人は誰もいない状態だったと言えます。
~その2につづく。